医療分野コーチングプログラム
AEメディカル

DVD・書籍注文

「介護人材育成2005」 掲載記事
(2004年 Vol1.2 no.1)

効果的なスタッフ教育のためのコーチング
第1回 コーチングって何?

株式会社 アニメートエンタープライズ 代表取締役
国際コーチ連盟プロフェッショナル認定コーチ
有限会社AEメディカル代表取締役
野津浩嗣

コーチの歴史

「コーチ(Coach)」という言葉が登場したのは1500年代で、「馬車」という意味があり、そこから「大切な人をその人が望むところまで送り届ける」という意味が派生します。
1840年代には、イギリスのオックスフォード大学で、学生の受験指導をする個人教師のことを「コーチ」と呼ぶようになります。スポーツの分野で使われるようになったのは1880年代のことで、ボート競技の指導者が「コーチ」と呼ばれていました。
マネジメントの分野で「コーチ」という言葉が使われ始めたのは、1950年代です。マイルズ・メイス(Myles Mace,当時ハーバード大学助教授)が“The Growth and Development of Executives”という著書の中で「マネジメントの中心は人間であり、人間中心のマネジメントの中でコーチングは重要なスキルである」と位置づけています。そして1980年代になると、コーチングに関する出版物が登場しました。
1987年には、アメリカにおいてマネジメントセミナーが開催され、国内を代表するコーチたちが一堂に会してコーチングのテクノロジーについて語っています。1990年代になると、アメリカでコーチを育成する機関が次々に誕生し、現在では1万人以上の職業コーチがいます。
日本では、2000年よりコーチングの普及が加速してきました。

コーチングとは

英和辞典でCoachという言葉を引くと最初に、「馬車・四輪馬車」と書いてあります。2番目に「家庭教師」、3番目に私たちの認識度が高い「スポーツのコーチ」が出てきます。この3つの共通項は、目標達成をサポートして「導く」ということです。
馬車は、その人を目的地まで運ぶとか、大切なものをその人に送り届けるという役割があり、家庭教師は、その学生の望む学校に合格させるという役割があります。そしてスポーツのコーチは、その選手の能力を引き出して大会で優勝させることだったり、自己の最高記録をつくっていくサポートをするという役割があります。
このように、「導く」という言葉の中には非常に広い意味があるのです。しかし、コーチとはあくまでサポート役であり、必ずその相手(クライアント)がメインとなるのです。
コーチが上司であればクライアントは部下であり、コーチが介護職員であればクライアントは要介護者になります。コーチがそれぞれに合ったサポート役という立場をとることで、医療・介護の分野においてもコーチングの効果が大きく期待できるのです。

コーチの役割とは

ここまで述べてきたように、コーチとは、メインである相手(クライアント)がいて、その人の目標をサポートしていく人のことです。しかし私達が持つスポーツのコーチのイメージは、いわゆるスパルタ的なコーチのイメージが強いのではないでしょうか。スポーツ界では、往年の名選手が必ずしもよいコーチになれるわけではありません。かえって自分のやり方や成功パターンにとらわれて、一方的な指導(押しつけや指示)に終始し、選手の自発性や創造力を妨げてしまうケースが多々あるようです。
同じようなことが、仕事の場面でも言えます。管理職になって部下を持つようになると、部下がうまくいかない時、「このやり方が正しい」「私の言ったとおりにやれば間違えない」と自分の体験や考えだけを相手に押しつけてしまうということがあるようです。
「ああしろ」「こうしろ」と言う上司のやり方は上司のそれまでの経験から培われたもので、今の部下の状況、環境、人間関係に当てはまるものではなく、また、部下の能力・スキル・価値観とイコールでもありません。ここでは、上司が結果をつくり出す方法を1つしか知らず、部下がそれ以外の方法で「できる」という保証と自信を上司が持てないことが問題です。
スポーツでも仕事でも共通している成功の秘訣は、コーチ側の知識・経験よりも相手側(クライアント)の可能性に目を向けているということです。
介護に従事する皆様は、なぜこの仕事を選んだのか、何にやりがいや満足感を得ているのでしょうか?一般的に介護事業は、労働条件や賃金、利用者への気配り、心身共に起こるストレス、環境などの面で、決して恵まれているとは言えない仕事です。
人から人への対人サービスである介護事業は、介護職員のやりがいや満足感というモチベーションがない限り、専門的な質の高い介護を提供し続けることはできません。まして、医療・看護などに比べて専門職としての位置づけ、倫理、価値観、技術の統一化や水準が低く評価されている中では、上司(コーチ)が部下のやる気を引き出し、組織内コミュニケーションを向上させていくことが重要です。

コーチング理論

コーチングとは、スポーツの分野で言うと「選手の能力を高めていくこと」、そしてマネジメントの分野では「部下の力を最大限に発揮させること」、カウンセリングの分野では「クライアントから引き出していくこと」です。コーチング理論は、これらが統合され誕生しました。そして、その理論を基にコーチングスキルができました。
コーチングスキルとは、相手のやる気を引き出していく、自発的な行動を促していくといった目的のためのコミュニケーションスキルです。コーチはコーチングスキルを使い、クライアントの能力を引き出し、目標達成のサポートをしていきます。

コーチングの哲学

コーチングにおいて、最も重要なことは哲学です。コーチングをする時に、どのような考え方、立場、在り方からかかわるのかということです。コーチとクライアント(相手)とは、上司、部下や親子関係などの立場を越えた一人の人間として相手をとらえることができなければ、コーチングはうまく機能しませんし、成立もしないのです。

1)人間は無限の可能性を持っている

コーチングの人間観では、人は誰でもそれぞれに素晴らしさがあり、無限の可能性を持っていると考えます。私たち一人ひとりが、今現在発揮している以上の能力や可能性をもともと持っているということを前提とした概念です。
人から最高のものを引き出すには、そこには、最高のものがあると信じなければいけません。この哲学には、コーチングと従来の指示命令的なボスマネジメントとを画す重大なポイントがあります。コーチングと従来のマネジメントの人間観の違いについて、アメリカの経営学者ダグラス・マクレガーが提唱した「X理論」、「Y理論」という考え方がよく表わしています。
マクレガーは企業経営において、経営者・管理者が持つ人間観は大別して2つあると主張し、1つを「X理論」、もう1つを「Y理論」と名づけました。X理論とは、「人は基本的に怠情であり、アメやムチによってコントロールしない限り動かない」という考え方です。一方、「Y理論」は「人は基本的に勤勉であり、条件や環境が整えば、特に周りから言われなくても自然に動く」というものです。わかりやすく言えば、「X理論」=「性悪説」、「Y理論」=「性善説」であると言えます。さらにマクレガーは、「マネジメントという仕事の本質は個々人の内にある潜在的可能性を触発することでなければならない」と提唱しています。
また、松下幸之助氏は著書の中で「人間はダイヤモンドの原石である」「経営者、管理者の役割はそのダイヤモンドの原石、人を磨くことが経営者の役割である」と表わしています。
そもそもマネジメント理論は、「いかに社員を管理するか」という発想を土台として発展してきたものです。そしてこの管理という言葉の背景には、もともと思いどおりにならないものをいかにして思いどおりにするかという操作主義的な考え方が強く存在しています。
一方、コーチングにおいては、「人は無限の可能性を持っている」という性善説的なY理論の上に立っています。これは前提であって、理屈ではありません。つまり、そう信じるか、そう信じないかという価値観、あるいはパラダイム(ものの見方)の問題と言えます。

2)答え、能力はその人自身が持っている

コーチングでは、「部下が必要とする答え、能力はすべてその部下自身がもっている」という考え方が前提となります。ただ、「答えは部下の中にある」と言っても、その答えを本人が「知っている」かというと、必ずしもそうではありません。多くの場合、その答えは部下の中に「眠っている」のです。なぜ「眠っている」のかと言えば、多くの部下が「答えは自分の中にある」ということ自体信じていないからです。
これまで私たちは、家庭でも、学校でも、会社に入ってからも、答えは誰か「上」の人たち、つまり、親、先生、上司という立場の人たちが持っていると常に教えられ、そのような環境の中で育ち、知らず知らずのうちに自分の中にある答えに蓋をしてしまったのです。多くの人たちは、親や先生や上司など、上の人たちの指示どおりに動いたり、その反動でただやみくもに反発したり、周りの人たちと同じようなことをしたりという行動しかとれなくなってしまったのです。
もし、その人が「答えは自分が持っている」と信じれば、「自ら考え、自ら動く」という自立的な考え方や行動になるのです。言い換えれば、答えは外から与えられるのでは意味がなく、自分から生み出さなければ、その人の身につかないということです。

3)その答えを見つけるためのサポートが必要である

上司やコーチにできることは、相手の中にある答えを「引き出す」ことだけです。ここに、上司の一つの存在意義があるのです。すなわち、部下自身が気づいていない答え・能力を部下自身が見つけられるように上司が適切なサポートを行うことで、部下が自分の中に答え・能力があると気づくことができるのです。では、どのように部下の中にある答えを引き出すのでしょうか。それは、部下に対して「問いかける」ということをやり続けるのです。
人間の意識は通常、外を向いています。それは、外界から入ってくる刺激を受け止めながら、それに対して自分がどのように反応すべきなのかを無意識に判断しようとしているからです。この動きが無ければ、私たちはこの複雑な世の中で正常な社会生活を営むことはできないでしょう。ただし、意識が外にばかり向いていると、自分の中にある答えを見つけ出すことはできません。
もし、部下が上司の顔色ばかりうかがっていて、次に与えられる答えをただ待っているだけだとしたら、自分の中に眠る能力や可能性をいつまでたっても発揮することはできないでしょう。したがって、上司として、普段から外にばかりむいている部下の意識の矢印が内を向き、自分の中にある答えを見つけられるようにサポートする必要があるのです。
人間の顕在意識と潜在意識は1:9の比率であると言われています。コーチングは、私たちの潜在意識、「自分でも気づいていない部分」に有効な問いかけになるのです。
マラソンの小出義雄監督は、シドニーオリンピック前に高橋尚子選手に対してこんな問いかけをしたそうです。「これからQちゃん(高橋選手の愛称)が行う練習に、3つのトレーニングコースを用意した。1つ目は、金メダルを取るためのトレーニング、2つ目は銀メダルを取るためのトレーニング、3つ目は銅メダルを取るためのトレーニング。これから、どのトレーニングをやりたい?」
もちろん、高橋選手は金メダル用のトレーニングという答えを選択しましたが、どのトレーニングをやるかを自分で決めたことが実際に金メダルを取る可能性を高めたのではないでしょうか。

コーチングが注目されている背景

2000年ごろから企業がコーチングに注目した背景には、一向に上向かない経済状況の中、目まぐるしく変化する環境下で「いかに人材を育成していくのか」、リーダーという立場であれば「いかに変化対応力に富んだリーダーシップを自分自身で開発していくか」ということがあったからではないでしょうか。
この不況下で、日本の企業はさまざまな改革を行ってきました。しかし、リストラをはじめ、業務の効率化を図り、従来のピラミッド型の組織をフラット型にするなどの手段では、大きな成果を十分にもたらすことはできていないようです。
それに加え、昨今、世代間の価値観の違いは大きくなるばかりで、コミュニケーションが取りづらくなってきています。以前は「十年一昔」と言われていましたが、現在は2〜3年の年齢の差でも、価値観は大きく異なっているようです。「自分の時代はこうだった」「こういう時はこうするのだ」と上からの価値観や考え方の押しつけは通用しなくなってきています。組織が大きくなるほど、情報の共有化は難しいと言われていますが、それは組織の大きさが問題なのではなく、コミュニケーションの取り方が問題なのではないでしょうか。
このように、時代と環境が変化していく中で、マネジメントスタイルにも変化が出てきました。「私たちの時代はこうだった」「仕事はこうやるものだ」というような、これまでの経験や知識だけを生かした指導方法、上からの一方的な指導では通用しません。これからは、「上から下」「下から上」の双方向のコミュニケーションが必要です。
この双方向のコミュニケーションを生かしたコーチングは、部下の能力を最大限に引き出し、自発的な行動を促進させるという力をつけていくこと、そして部下の状況対応能力をアップさせていくこと、組織内のコミュニケーションの質の向上と活性化に、大いに機能します。

コーチングとは双方向コミュニケーション

コーチングは、コーチがクライアントに質問を投げかけ、クライアントから答えを引き出す「質問型」コミュニケーションになります。確かに介護従事者は日常業務の中で、質問型のコミュニケーションスタイルを取ることがよくあります。しかし多くは、自分(コーチ)の聞きたいこと(情報)を聴き、クライアントの話したいことを聴いているわけではないようです。すなわち、コーチングの前提とは違う双方向のコミュニケーションになっているようです。
コーチングとは、上司から部下に対して答えを与える「指示命令型」ではなく、質問を投げかけて部下から答えを引き出す「質問型」のことを言います。そして、答えを引き出すだけではなく、部下が目標を達成するために自発的に行動させていきます。
長期的に質問を投げかけて答えを引き出すコーチングを続けると、部下は答えを見つけようとし、話すことによって考えが整理され、気づきが深まります。人から指示されたり、答えをもらったりした時ではなく、自分で気づいて答えを出した時に自発的に行動を起こしたくなるのです。
介護リーダーがコーチングを習得すると、双方向コミュニケーションがより図られ、職場のコミュニケーションの質と量を改善することにもつながります。ひいては、職員と利用者とのコミュニケーションの質と量もよくなっていきます。

まとめ

今回は、コーチングの概論について説明しました。次回より、具体的なコーチングスキルの紹介や実践の仕方、職員間のコミュニケーションや人材育成についての事例を説明していきます。組織内にコーチングが効果的に使われ始めた時、利用者からの評価が大きく変わり顧客(利用者)満足度も高まることでしょう。

引用・参考文献

1) ダグラス・マクレガー著、高橋達男訳:企業の人間的側面〜統合と自己統制による経営、産能大学出版部、1990.


AEメディカル Contact: info@ae-medical.com    Tel.092-739-7522

Copyright 2009 AE Medical CO.,Ltd. All rights reserved.
このホームページに掲載されている記事・写真・図表などの無断転載を禁じます。

URL: http::/www.ae-medical.com/