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「介護人材育成2005」 掲載記事
(2005年 Vol.2 no.2)

効果的なスタッフ教育のためのコーチング
第2回 事例で学ぶ!
    タイプ別介護スタッフへのコーチング(1)

株式会社 アニメートエンタープライズ 代表取締役
国際コーチ連盟プロフェッショナル認定コーチ
有限会社AEメディカル代表取締役
野津浩嗣

介護現場ではさまざまなスタッフが勤務しています。中にはいわゆる“ちょっと困ったスタッフ”もたくさん存在するのが現状です。
本掲載では、今回から5回にわたって介護現場でよくいる“ちょっと困ったスタッフ”に対するコーチングの仕方を毎回2つの事例を挙げて解説していきます。
今回は、「上司・先輩から指示がないと動けないスタッフ」「いまだに学生気分で仕事をしているスタッフ」に対するコーチングの仕方を紹介します。

事例1:上司・先輩から指示がないと動けないスタッフ

1)指示がないと動こうとしないKさんとの面談

 あるデイサービスに勤務するM主任は、職場の活性化を図るために、コーチングを部下育成に活用しています。
 M主任は、日頃から主任や先輩から指示がないと動けない部下のKさんのことを何とかしたいと考えていました。仕事ができる人になってほしいと願っているのですが、なかなか自分から自発的に動いてくれません。M主任は、Kさんをもしかしたら甘やかしていたのかもしれない、“できない人”と決めつけて接していたのかもしれないと自分自身のことを反省しました。
 コーチングを学ぶようになってからM主任は、これからは「Kさんを甘やかさない」「できない人として扱わない」と決心しました。早速、M主任はKさんと面談を行いました。

M主任:
Kさん、調子はどう?
Kさん:
はい・・・・、別に悪くはないです。
M主任:
Kさん、前から聞いてみたいと思っていたんだけど、デイサービスの職員としてどうありたいと思っている?
Kさん:
そうですね〜、この職場は好きです。でも、問題が発生して自分に責任を持たされたら、ちょっと困ります。僕にはあまり期待しないでください。

主任は、このKさんの反応に少しがっかりしました。しかし、この機会にKさんの置かれている状況を確認すると同時に、Kさんの仕事に対する思いを聞いてみようと思いました。

M主任:
Kさんは、今、どんな仕事がしたいと思っているの?
Kさん:
どちらかと言うと、人とかかわるのが苦手なんです。できれば人とかかわらない仕事がしたいと思っています。

 デイサービスは、人と接する業務がほとんどです。M主任は、Kさんが仕事にやりがいを持って、自発的に行動してほしいと思い、次のような質問をしました。

M主任:
デイサービスに来られる利用者の方は、ここに来てスタッフから元気をもらっているの。帰られる時の表情を見たらわかるよね。そうして差し上げるのが、私たちの使命だと思うよ。
Kさん:
そうですね〜。
M主任:
Kさんは、自分がレクリエーションを担当している時、利用者の方と一緒にレクリエーションをやっている時の自分をどう思う?
Kさん:
皆さんが笑ってくれる姿を見ると、やっぱりうれしいですよ。
M主任:
そうね。うれしいよね。Kさんから見て、今のサービスメニューをどう思う?
Kさん:
そうですね〜。男性の利用者の方は、ゲームにあまり参加されないので、本や新聞の話題を活用するような場を設けるのもいいかなあと思います。女性の利用者の方が多いというのもあって、どうしてもリクリエーションの内容が女性向けに偏っていると思います。
M主任:
なるほどね。Kさん、みんなと違う視点を持っているね。男性のメニューについて何か提案してくれない?
Kさん:
僕にできますかね?
M主任:
もちろんよ。Kさんはデイサービスの中では唯一の男性よ。Kさんにしかできないことだと思うの。
Kさん:
そうですね〜。明日から男性の利用者の方一人ひとりに希望を聞いてみましょうか。
M主任:
わぁ〜、そうしてくれるとすごくうれしい。頼むわね!
2)コーチングがもたらした業務改善

 さらにM主任は、Kさんに次のような質問を重ねていきました。
「Kさんが積極的にできる仕事ってどんなこと?」
「今までにやったことのない仕事でできそうなものは何?」
 このように、M主任はKさんの答えを引き出し、一緒に業務についてリストアップしていきました。そして、Kさんにチャレンジしてほしいことを伝え、今の業務、これからしたい業務について、さらに具体に整理して提出するように宿題を出しました。
 Kさんのことをきっかけに、M主任はスタッフ全員にも、今の業務をすべて書き出すように伝えました。  最後にM主任が行ったことは、部署の会議でKさんが担当することになった業務について、Kさん自身に発表してもらうことでした。それは、スタッフ全員の前で発表することで、本人に責任を持たせるためでした。Kさんが業務を実行したかどうかは、部署のリーダーがチェックをしていきました。3ヵ月が経ったころには、Kさんが自主的に行動できる範囲は確実に広がり、生き生きとした表情になってきました。
 今回のケースでは、M主任との面談をきっかけに、指示がないと動こうとしなかったKさんの自主性が高まったことはもとより、Kさんの周りのスタッフにもよい影響をもたらしました。それはKさんの姿を見て、“仲間として自分がどうすべきか”をみんなが共に考え、サポートしていったからなのです。
 M主任は、コーチングでKさんとかかわりながら自発性を高め、さらにスタッフ全員の業務を整理し、改めてそれぞれの業務を明確にして、仕事の仕組みを整え改善することができました。

3)まとめ

 この事例は、コーチングにおいても最も重要な哲学に則って部下とかかわったことがポイントです。前回(本誌Vol.2、No.1、P64〜66)紹介したコーチングの哲学の中にある「人間は無限の可能性を持っている」という概念そのものです。
 人は誰でもそれぞれに素晴らしさがあり、無限の可能性を持っていると考えます。相手に対してどのような見方や接し方ができるか、もっと言えば上司と部下の立場を超えた、一人間として相手をとらえることができなければ、コーチングはうまく機能しませんし、成立もしないのです。

事例2:いまだに学生気分で仕事をしているスタッフへのコーチング

1)S主任が気になった場面

 真夏の夕方、ある福祉施設で納涼祭が行われました。利用者の家族もたくさん集まっており、職員も忙しそうに動いていました。
 S主任が廊下を歩いていると、前方から行事の担当をしている他部署の新人職員2人が、にぎやかに話をしながら歩いてきました。S主任は2人に声をかけようとして見ていました。しかし、その新人職員たちは、いっこうにS主任の存在に気づきません。S主任がすれ違いざまに「お疲れ様」と言うと、やっと気づいたのか、「あっ、お疲れ様です」と答えたのでした。S主任は「この新人たちは自分たちの話に夢中になっていて、すれ違う人を意識していない様子だわ。もしかしたら、利用者や家族にも同じようにしているのかもしれない」と思い、心配になりました。
 4月に新人教育として接遇教育はひととおり済んでいましたが、個別指導も必要だと判断したS主任は、この2人と話し合うことにしました。

コーチングの場面:納涼祭終了後、廊下から場所を変え、面接室にて話し合う。(ポイント1)
出席者:新人職員Mさん・Yさん、S主任。対面に座らず、L字型の位置に座る。

S主任:
今日はお疲れ様でした。行事の担当を初めてやってみてどうでしたか?(ポイント2)
Mさん:
先輩が何かと気にかけていてくれたので、何とかスムーズにやれたと思います。
Yさん:
私も同じです。それから・・・・私が担当している利用者の方のご家族とも少しですが話ができました。その方の若いころのことを聞かせていただけたので、これからは今までとは違ったかかわりができそうです。
S主任:
それはよかったわね。先輩の気遣いをMさんがわかっていたことがうれしいわ。実は、2人に疲れているのを承知で集まってもらったのは、大切なことについて話し合いたかったからです。(ポイント3)
Mさん:
何でしょうか?
S主任:
今日、私はあなたたちと廊下ですれ違ったけど、その時のことを思い出してくれるかな。
Yさん・Mさん:
あっ、はい。
Yさん:
2人で話しながら盛り上がって歩いていて、主任に気づきませんでした。主任から声をかけられて、「あっ、やばいな」って思いました。
Mさん:
私は、「えっ?」っていう感じでした。
S主任:
正直にいってくれてありがとう。Mさんの場合は、その時どんな気持ちだったの?
Mさん:
その時は特に何も思わなかったのですが、後で何となく気持ちがすっきりしませんでした。
Yさん:
新人研修であいさつの大切さは習っていました。それなのに、主任の方から言われて・・・・すみませんでした。
Mさん:
すみませんでした。
S主任:
わかったわ。じゃあ、新人研修のおさらいを兼ねてあいさつの大切さについて、改めて考えてみましょう。2人は4月に入職してから今日までどんなところに気をつけてあいさつしているのかな?
Yさん:
自分の方からあいさつをするようにしてきました。それから・・・なるべく元気よく。
Mさん:
私もそうですけど・・・。でも、毎回会うたびにあいさつしないといけないのかなと思う時もあります。それに、何となく恥ずかしい感じがします。
S主任:
そうなんだ。ほかにはどう?
Yさん:
利用者の方には、出勤したら、皆さんにあいさつしています。でも、ご家族の方が来られた時は、飛んで行ってまではあいさつしてません。研修の時に“すぐに行ってお迎えしなさい”と習ったので、いつも行こうかなと思っていると、先輩が先に行ってしまうんです。
Mさん:
主任や先輩は、いちいち出会った時にあいさつするって恥ずかしくないのでしょうか?
S主任:
2人があいさつのことをこんなに気にかけて、努力していることがわかりました。ありがとう。それから、Mさんの質問だけど、気持ちはよくわかりますよ。私も若い時は気恥ずかしさを感じたものです。Yさんはご家族の姿を目に留めているけど、身体がなかなか動かないとういことですね。
Yさん:
はい、ご家族の方と主任や先輩が話しているのを聞いていると、とてもあんなふうにうまく相手をすることがきでないと思って気後れしてしまいます。
S主任:
あいさつは、よく知っている人だけにするものではないのよ。ましてや、自分が働いている施設の中であれば、知らない人であってもね。私は声かけができない状況であってもせめて会釈だけはすることにしているの。それは、施設までわざわざ来られているお客様に対して、歓迎の気持ちを伝えるためよ。だから、“いらっしゃいませ”と言ってご用件を伺うの。
Mさん:
歓迎の気持ちですか?
Yさん:
こちらが知らない人は、向こうの方もこちらをご覧にならないので、ついついそのままになってしまっています。
S主任:
仮に、MさんやYさんのおばあちゃんが施設に入所しているとして、あなたが始めて面会に行くとするじゃない。面会に行く側の人はどんな気持ちだと思う?
Yさん:
初めてだったら、どんなところかなあとか、どんな人がいるのかなと思います。
S主任:
なるほどね。Mさんはどう思う?
Mさん:
そうですね。自分が分からない所へ行くのは不安です。
S主任:
そんな気持ちのあなたに、施設の職員からどんなふうに対応してもらったら、ほっとするかしら?
Yさん:
職員の方から声をかけてもらったらうれしいと思います。忙しそうに動いている職員の方には、自分から声をかけにくいと思います。
S主任:
遠方から来られている方や、お年を召した方が面会者だったらどう?
Yさん:
そういえば、先日面会に来られた方は78歳で、自分も足腰が悪くてやっとの思いで来たと言われていました。
Mさん:
私が担当している利用者の息子さんも、なかなか休みが取れなくて、どうにか都合をつけてきたと言われていました。面会に来られるのは当たり前だと思っていたけど、ご家族の方にとっては簡単なことではないようです。
S主任:
2人がご家族の方のそういう気持ちを聞いてくれていることに頼もしさを感じるわ。今の気持ちを言葉や態度で表すのがあいさつだと思うのよ。
Mさん:
でも、職員同士がすれ違うたびに会釈するのも、今のことと何か関係があるんですか?
S主任:
そうね。私の場合は、自分がこの施設で仕事できているのは、一緒に働く職員の皆さんのおかげだと思っているの。1人では利用者の方へのサービスはできないものね。その皆さんへの感謝の気持ちを会釈に代えているのよ。ここまで話し合ってみてどう?
Yさん:
S主任とすれ違った時の自分を考えていたんですけど、もし1人で歩いていたらあいさつしてたかもしれません。これからは、ほかの人と歩いている時は、自分たちの話に夢中にならず、周りにも気を配ります。
Mさん:
主任や先輩は、もう身についた習慣になっているから、きっと抵抗がないのだと思いました。私も習慣になるように意識してみます。
S主任:
今日はいろいろ聞かせてくれてありがとう。Mさん、Yさん、あなたたちならきっとすぐにやれると思うよ。お願いしますね!
2)まとめ

 この事例において、S主任は2人の新人職員に注意する際のポイントとして、いきなり本題に入るのでなく、まずねぎらいの言葉をかけ、新人職員に面談の目的を伝えています。
 そして、問題を感じたその場で注意するのではなく、環境設定を行った上で面談をしています。相手に安心感を与え、良好なコミュニケーションを成立させるためには、環境設定が大切です。留意点として次の3点を挙げます。

  1. 事前の心構え
    コーチングの初心者は、次のことを事前に自分に言い聞かせておく必要があります。
    • 「相手の言いたいことを全部聞こう」
    • 「答えは相手が持っている。それを相手から引き出そう」
    • 「指示をしない。命じない。相手に考えさせよう。」
    • 「拒否的姿勢をとらず、相手の話に興味・関心を示そう」
      ここで言う拒否的姿勢には、腕を組む、足を組む、相手を見ない、相手をにらむなどの姿勢が挙げられます。
  2. 「場所」の選定
    話のテーマや相手の様子などに応じて、場所を変える配慮が必要です。ここでは、面談の原因となった、S主任と2人の新人がすれ違った廊下から場所を移すことで、2人が話しやすくなる配慮をしています。
  3. 座る位置
    「対面型」に座るよりも、「直角型」、あるいは「八の字型」に座ることが良好なコミュニケーションを図るために望ましい座席の位置です。

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