「大丈夫です」という言葉が、最近では違う意味で使われ始めています。しかし、それを理解できていない方との間ですれ違いが起こっています。
「大丈夫」とは、たとえば広辞苑では「地震にも大丈夫な建物」など「しっかりしているさま、堅固なさま」という具合に「丈夫で強い」が第一義に出ています。三省堂国語辞典では「頭のけがは大丈夫ですか」のように、病気やけが、損害などが深刻でないようす。または「天気は大丈夫かな」など不安や心配がない様子とあります。
例えば部下と焼肉に行った帰りに「どうだった、あそこの肉は」と尋ねると「大丈夫です」。上司からすると、焼肉をごちそうして「とってもおいしかった」を期待していたのに「今のところ、食あたりの危険は避けられて安心しました」と言われたようで「ガックリした」と、上司が落ち込んでしまうというエピソードもあるようです。
「大丈夫」=「不必要」の意味が定着しているのがその原因と言えます。国語辞書も(俗)との断りを入れながらも「大丈夫」の用法拡大を受け入れつつあります。「お皿をお下げしても大丈夫ですか?」という問いかけに「よろしい」「結構」と、「OK」の意味で応じるパターンに加え、「レジ袋は大丈夫ですか(必要ですか)?」「大丈夫です(いりません、不要です)」というやりとりも載せて、「必要」「不必要」などを表す言葉としても「大丈夫」を認めるようになっています。バリエーションや使用範囲はさらに拡大を続けていて、味のおいしい、まずいまでカバーしつつあるようです。
イエスも、ノーも、必要も、不要も、うまいも、まずいも何でも表現できる万能言葉「大丈夫です」。ただ、ビジネスシーンで使う場合は日常よりも丁寧な扱いが必要だといえます。たとえば仕事の進行状況を上司から尋ねられて「大丈夫です」と応じたら、上司は「ほとんどできあがりつつあるんだな」と思うかもしれません。でも、実際の仕上がりがまだ半分程度だったら、後になって「まだ終わらないのか、さっきは大丈夫と言ったくせに」と上司が不満を抱くおそれがあります。受け取り方が様々な「大丈夫」という言葉に託してしまわないで、もっと具体的に「あと3時間かかります」とか、「今、半分ぐらいの進捗です」といった表現を選ぶほうが誤解が生じにくいでしょう。
「ノーサンキュー」の意思表示をしたいケースでは、さらに言葉選びを慎重にしたいところ。冒頭に挙げた焼き肉店の例でもわかる通り、先方が気配りして提案してくれたのに、「大丈夫です」で答えてしまうと、気分を害しかねません。こちらが客の立場であれば、素っ気ない態度でも済むかもしれませんが、上司や取引先が相手ではそうはいきません。
年齢に関係なく浸透してきているこの便利な「大丈夫です」。時と場合によっては相手に誤解を与えるかもしれないということを忘れずに使っていきたいところです。
日々変わっていく言葉に敏感でいたカ!